一般社団法人 茗渓会

筑波大学同窓会
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2025年8月29日掲載

第8回医薬品・関連業界交流会開催報告

【日時】令和7年7月4日(金)18:30〜21:00
【場所】茗渓会館
【参加人数】会場:10名、オンライン5名?
【話題提供】高橋政治さん(2002年?生物学類卒)
      S M B C日興證券株式会社
プライベート・キャピタル・ソリューション室 
ディレクター

近年、◆①医薬品の開発・製造力強化が必要なことから創薬ベンチャー、スタートアップ支援の強化が叫ばれています。今回、その最前線で活躍されている、S M B C日興證券株式会社の高橋政治さん(生物学類卒)に話題提供いただき、フリーディスカッションを実施しました。
高橋さんは、創薬ベンチャーの上場へ向けた審査や、投資家への説明などを実施しておられます。これらビジネスを推進する現場では、バイオ関連、生物学の専門知識を必要とする場面が多いため、筑波大学で学んだ経験を最先端の実ビジネスに活かされています。◆②ディスカッションでの主なやり取りを紹介します(以下、敬称略)。

【高橋】◆③医薬品の開発には膨大な時間と費用がかかります。10〜15年もしくはそれ以上かかる場合も少なくなく、開発費用も数百〜千億円以上に上ります。したがって、製薬会社が単独で新薬を研究開発するには限界があり、多くの創薬ベンチャーとアライアンスを組む、もしくは吸収合併するビジネスモデルが世界的にも主流となりつつあります。そのためには、多くの創薬ベンチャーが育っていることが大前提ですが、これがなかなか難しい。そもそも、ベンチャー企業には求められる成果物を創出するための資金が不足している。一方、投資する側としては、売り上げのない段階で資金投入するわけですから、客観的な判断材料が欲しいわけです。したがって、ベンチャー企業にとっては、IPO(株式公開)がその解決策であり、資金調達の道が開かれます。
IPOする条件としては、(1)知財戦略が確立できていること、(2)開発段階がフェーズⅠ以降であること、(3)開発品のパイプラインを確保していること…等があり、これらの条件が満たされていないと、◆④東証では株主に興味を持ってもらえません。そして何より、◆⑤実際に患者さんに投与したときの臨床試験データを有していることが評価されます。

【参加者】かなりハードルが高いですね。◆⑥(開発中の医薬品を試験として試す)フェーズⅡまで進むのは、本当に大変ですから!

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  • 【高橋】一般的なビジネスモデルとして、パイプライン型およびプラットフォーム型がありますが、パイプライン型は、開発・製造・販売を一貫して一社で行うスタイル、プラットフォーム型は、複数の企業や顧客と連携しながら役割分担しながら企業価値を高めるスタイルです。ベンチャー企業の場合、規模的にも資金的にもパイプライン型は難しいので、多くの場合はプラットフォーム型です。
    プラットフォーム型では、劇的な利益獲得は期待的できないものの、契約件数をどのくらい取るかで検証していくため、比較的リスクを回避しながら成長を検証していくことができます。例えば、◆⑦上場から10年以上となるベンチャー企業・ペプチドリームなどは、多くのパートナリングを組み、提携によりキャッシュを生み出しています。

【参加者】具体的にどのくらいの上市があるのですか?

【高橋】現在バイオベンチャーは63社上場されています。ペースとしては年間に2〜3件程度です。
事例としては、ハートシード(iPS細胞から心筋細胞を作る技術/時価総額? 280億→ 700億に成長)、ノイルイミューン(CAR-T細胞)、サスメド(不眠症治療アプリ→ 200億)などがあります。
市場全体としてバイオベンチャーのIPOは厳しく、日本はシュリンク気味。投資額も◆⑧500億円は必要なのに、実際には100億円程度で留まっていることも少なくありません。また日本は、年度ごと、縦割り運営で継続性がないことも成長の足枷になっています。創薬には、5年、10年の継続的な支援が必要ですから。

【参加者】日本の場合は、「薄く広く」が多いようですね。

【高橋】最近では、国の支援も以前と比べると手厚い(充実した)ものとなってきています。10年間で3500億の公的資金が確保されていますので、これにより資金不足の問題が解消されると良いと思います。
なお、公的資金導入のきっかけは◆⑨新型コロナウイルス感染症の流行であり、コロナ以降、医薬品の開発力が脆弱であることへの危機感が高まったという背景があります。とくに感染症はパンデミックが起きてからの対応では遅いですから。創薬力強化は、新規ベンチャー企業、マーケット、ビジネスを生み出すとともに、経済安全保障の観点からも重要な戦略です。

【参加者】3500億円投入して、どのくらいの効果が出るのでしょうか?

【高橋】1000億規模の企業を年間7社ほど育成することを目標にしていますが、バイオテックは、2000億の投資に対して6000億の市場が見込めないとリターンも期待できない厳しい業界ですから実際は厳しい状況です。。創薬が、ハイリスク・ハイリターンビジネスと言われる所以です。しかし、生命関連性製品である以上、社会に必要な産業です。リスクから逃れるのではなく、リスクを取りつつリターンを確実にするための戦略的投資が必要です。

【参加者】グローバル市況としては、どうですか?

【高橋】米国ナスダックにおいても、直近ではバイオテック関連のIPO規模は下がり続けています。世界的に見ても、2020年以降バイオベンチャー市場の成長は伸び悩んでいます。これはコロナの影響が続いているというより、米国金融経済が混迷していることによると考えられます。

【参加者】よく、「日本は研究レベルや技術力は高いが、それをビジネスにする力が弱い」と言われますが?

【高橋】とくに大学発ベンチャーは、◆⑩製薬企業が作りたいと思える製品を作ろうという「プロダクトアウト(企業の技術や意向を優先して製品開発する方法)」の発想が乏しいですよね。製薬企業がどこまで求めているのか?そこの“詰め”が甘いと思います。
例えば、開発途上で課題に気付いたけれど、(我社は)ここまでやったから続けるしかない…みたいな(苦笑)現実もあると思います。シーズ・ニーズと言うけれど、シーズ側も「自分たちの技術のマーケットにおける出口を求めている」点においてはニーズです。だから、初期の段階から市場における共通の最終ゴールが見ることが求められます。

【参加者】それでも、良い技術があれば世界中から買いに来てくれるはずですよね?技術があるのに見つけてもらえてないのでしょうか?

【高橋】いえ、そうではありません。見つけてもらえた上で、やはり買われていないのが現実です。グローバル市場から見ると、残念ながら日本の技術や市場は魅力に欠けるのです。
自己満足と言うか、“日の丸”創薬の感が強い(苦笑)。

【参加者】「目利き」の問題だけではないですね?

【高橋】一方で、ゲノム編集技術など、CRISPR-Cas9のような画期的な優れた技術を有していても、結局アメリカに先を越されてしまっています。要するにスピードが足りない。

【参加者】実にもったいない話ですね?

【高橋】バイオベンチャーは、国内ではなく、米国市場への展開を考えるのは極めて自然な判断となります。また、中国市場に特化する戦略をとっている企業もあります。中国は資金が潤沢にあるし、IPOについても比較的柔軟である。つまり調達環境が良いのです。

【参加者】海外からも買ってもらえないし、国内からも出ていってしまう、というダブルパンチ(苦笑)?ますますもって、日本が衰退の一途をたどる?

【高橋】そうですね、まずは資金の壁。全体として少額であり、ばら撒いている印象であるため、大きな成功事例を生み出せないでいるという現状。そして戦略の問題。初期の段階から共闘すべき関係者(例えば、アカデミア、企業、行政等)による互いのゴールが共有されていない。技術はユニークであっても、プロダクトアウトする段階で製品としての魅力がない。さらにスピードがないのに加えて、最も肝心なのは人材の問題。つまり、各署、各関係者が内向き、かつ保守的。縦割りで連携がない。日本のバイオテック産業を強化するには、これらの課題を解決することが重要だと思います。

【参加者】わかりました。課題は山積ですが、関係各署が連携して成果を上げていきたいところですね。高橋さん、ありがとうございました。

今回の話題提供を通じ、指摘された課題は、「決して昨日今日問われるようになったわけではなく、そもそもイノベーションとは、数々の不確実性要素を受容し、これを乗り越え先に起こるもので、誰かがやるのを待つのではなく、皆が考え、答えを出す意識を持つことが重要」との共通認識に至りました。

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今回、第8回目を迎えた当交流会ですが、会を重ねるにつれ、討議のテーマも深まり、参加メンバーの問題意識や求心力も高まっています。次回以降も別のテーマについて皆さんで自由闊達に話したいと事務局一同考えておりますので、関心のある方々のご参加をお待ちしています。

注釈)
・創薬のフェーズ(医薬品開発の臨床試験において、フェーズⅠ〜Ⅲまでの段階がある)
・CAR-T細胞療法(患者自身の免疫細胞に遺伝子操作技術によって抗がん作用を組み込む治療法)
・CRISPR-Cas9(遺伝子編集のためのゲノム編集技術)

(91年理工学修士卒 野口道子 記)